Mini Suspension Technology その2
ミニの乗り心地は、ラバコンとその下に付く受け皿形状とのバランスで実現されているため、単純なゴムの伸縮を計測するだけではラバコンの乗り心地は表現し切れません。大小の入力に対して数字の変動が金属コイルスプリングの範囲を大きく越えているのです。ラバコンだけを計測しても正しいスプリングレートは「絶対に求められない」事を各種スプリング製作している工場でもミニ屋さんの中でも案外理解し切れていないのです。未だにスプリングレートの設定や、製造方法が全く【間違った方向】で企画された商品も多数見られます。
短く上下にストロークするアッパーアーム位置にラバコンが付いているので、取り付け空間が極端に狭い場所にコイルスプリングを無理やり押し込める構造となります。こうなると数ミリでもスプリングの自由長を無駄には出来ません。10mm厚のアルミカラーが付くと有効ストロークを30%以上も失うため、市販のアルミカラー付スプリングでは相当の工夫がなされていない限りは、“改良”ではなく“改悪“になるでしょう。
そのため乗り心地を重視、あるいは走りを重視した乗り味を求めて各レートでのコイルスプリング製作を行ってまいりました。しかしコイルスプリングも均等荷重では計算式通りであっても、自由長・有効巻数の少ないスプリングでは理想通りにはいかず、数々の苦労と試験から生まれたのがMSTです。
ラバコンのレート上昇は3次曲線的カーブに近似し、一般的なコイルスプリングは↑1次直線的になります。ストロークの中間部分に差が生じるため、ソフト側に作ればハードコーナーリング中にはふにゃふにゃと感じ、ハード側に作れば一般走行中に常時突き上げをくらう事となってしまい、車体は低速走行中でもピョコピョコ飛び跳ねてしまいます。特に荷重の掛かり難いリア側が顕著に悪さします。
ここで、クルマを大きなシーソーと簡略化して『てこの原理』を考えてみると、エンジンルーム付近の重量増加による影響がお解り頂けます。エアコン補記類などが増加したフロントパネル付近(オーバーハング約450mm= L1)を荷重の掛かる
力点とし、ホイールベース2035mm(= L2)の前輪を支点、後輪を作用点とみれば、フロント先端荷重の約22%が後輪に影響します。
[てこの原理]
W1×L1= W2×L2
L1 : 支点と力点の間の距離
W1 : 力点に加える力
L2 : 支点と作用点の間の距離
W2 : 作用点で得られる力 |
増加分をエンジンルーム内に配置したと仮定すると、フロント側50kg増加すると後輪(作用点)は約11kg軽く、100kg増加すると後輪は約22kg軽くなる方へ力が掛かります。これがフロントのラバコンをヘタラせ、リア荷重をより掛かり難くするという事です。昔ながら前後同レートのスプリングを使用している場合、どこかの時点でレート変更しない限りは正しいミニの乗り心地にはなりません。設計当初850ccの車体重量575kgが、日本仕様の最終1300cc(AT車)の車体重量740kgへと、エアコンや豪華内装などによって165kgも増加しています。
座巻形状:セミオープンエンドの優位性について。
MST-M140/R200のようにセミオープンエンドではない市販コイルスプリングでは、コイル先端が次のコイルに接している一般的な押しバネ形状のために有効巻数が少なくなります。そのためミニの狭いスペースではハード側に作らざるを得ません。
一般のコイルでは両端がセミオープンエンドに正確になっていない、または何もされていないのです。これではラバコンに近い特性は得られず、ラバコンより乗り心地の悪いミニになってしまうのです。そして【ヘタリ】は早く、車高も下がり、突き上げは相当のハズで、線間密着なのかバンプストップラバーなのか判らないくらい硬い乗り心地になります。
セッチング製法について。
スプリングを一度鍛錬するために時間を決めて圧縮し、時間を置いてから全長を計測・・・繰り返すことでスプリングの精度と強度にバラツキをなくすことが可能になります。これを実施しないと必ず前後左右で装着後から時間経過と共にヘタリ、全長が異なることで大きな問題となります。
セッチングはそれ程に特殊な技術ではありませんが、自動車スプリングを作る一般的な工場ではあまり実施されていません。それ程の精度が求められていないからなのです。しかしミニ用スプリングは極端に短く、直径は小さく、ストロークはストラットタイプのスプリングの1/5程度・・・と、超特殊条件には必要な製造方法なのです。
そして、これら以外にもアレコレと特殊なオマジナイをMSTにはいっぱい施してあるのです。ここから先へ進むと難解な物理学・数学を説明しなければなりませんので割愛させて頂きますが、早い話がバリエーション最多であるために公道〜レース仕様に適したスプリングレートが提供でき、ストロークの確保、製造工程、精度、耐久性、その他どれをとってもMSTを上回る製品は無いと自負しております。 |