図1はミニのフロント足回りを正面から見た際の略図です。この図からもお分かり頂けるように、タイヤが上下に動くと、タイヤは複雑な弧を描く事になります。これは、アッパーアームとロアアームの長さが異なり、更にその取り付け位置が全く別々となる為です。また、その軌跡を全て理解したとしても、コーナリング中の車体の傾きが加わって、増々難解な挙動となる事を理解して頂かないことには、正解が求められないと言う事に成ってしまいます。
図1をよく見て、「ミニは車高をペッタンコにすると、八の字が自動的にセットされるのでは?」と判断される方は、正しい物の見方ですが、そこまで車高を下げると必ずバンプストップラバーにアッパーアームが接触し、サスペンションの上下動を殺して、路面からの激しい突き上げを車体に直接伝達してしまい、速く正確なコーナリングが、ほとんど不可能になるのです。「カートはサスペンションなんか無くてもちゃんと素早くコーナーを回っているではないか。」と思う方の為にご説明致しますと、サスペンションの全く無いカートでも、実はタイヤ、シャーシ、そして人間が、サスペンションの役割を一部手助けしており、タイヤは多少変形するし、シャーシは必ずねじれますし、人間の体重移動は、カウンターウェイトとして役立っている訳で、超低重心のカートでも、一般道で乗り回したら間違い無く、荒れた公道のコーナーで車体が跳ね飛んで、簡単にスピンアウトする事になり、カートコースでは回れるコーナーも、一般道では全く無理と言う事になります。
ですから、入力されるデコボコを、タイヤとサスペンションストロークで吸収出来ない超シャコタンのミニは、「僕のミニは、コーナーはダメ。」と宣伝しながら走行している様なもので、「車高の低さは知識の低さに比例する。」と言う事です。
低い車体位置の方が何となく横転しにくいのでは、と信じる方は多いはずですが、一般道での横転は、スピンをした後、どこかに乗り上げたり、タイヤが何かに引っ掛かったり、また逆反転スピン(オツリ)が発生して真横から横転する事が多く、コーナー途中でフワァーと内側が持ち上がって外輪だけの走行になり横転する事故は大変少なく、シャコタンが横転しにくいと言う事はないのです。同様に、タイヤが滑りにくいと言う事もありません。むしろ滑りやすくなります。
表1 |
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車高 (mm) |
キャンバー角 ( °) |
新車時 |
(1) |
265 |
2.0 |
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(2) |
255 |
1.8 |
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(3) |
245 |
1.2 |
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(4) |
235 |
0.8 |
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(5) |
225 |
0.4 |
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(6) |
215 |
-0.2 |
話を本題に戻しましょう。図2はキャンバー角を表しています。表1は、車高によってタイヤ角度の変化を実際に計測した結果です。車高は、地面からフロントタイヤ直後のSモールの装着されるミニの車体の「耳」の部分までとしました。これは計算上では無く、実測値ですから、多少の誤差は発生致しますが、取りあえず参考にはなるでしょう。新車時の車高は測定しておりませんので、あるミニスペシャルショップからのデータ約265〜268mmを記しました。ミニの新車時のキャンバー角は2°±1°ですので、必ずタイヤ上部が広がった逆ハの字になっています。(2)〜(3)近辺の車高、つまり1/2インチ(12.75 mm)ほど車高を下げて、1.5°のネガティブキャンバー付きロアアームを使用すると、ほぼ0°になる訳です。車検付きの公道用ミニ1000であるならば、このキャンバー角がコーナーを抜け出せる上限と考えて下さい。それは一般道のコーナーの種類は無限にある訳で、筑波サーキット専用のセッティングとは異なります。(6)の215mmまで車高を下げると、既に限界を超えており、正しいサスペンションストロークが縮み側で確保できなくなります。この状態では公道の多くのコーナーで問題となります。参考までに、毎回同じではありませんが、「三和ミニ1000チューニング」38号車の筑波サーキット専用のセッティングは車高235mm、キャンバー角3.2°です。
そして次にテンションロッドとの関係を考えてみましょう。ミニは、テンションロッドなるバーで前側からロアアームのタイヤに一番近い所を固定しています。この、見た目チープな感じのする部品が実はサスペンションセッティングでは、大変重要な役割をしています。八の字の角度と同様、このテンションロッドで位置決めされている為に、トーインの角度、ブレーキングとコーナー途中の加速、そして直進安定性に影響を与える事になります。
超シャコタン・ミニでは、このバーの長さがツッパリ棒の様にしてロアアームを後方に押しやり過ぎてしまう事になり(各ブッシュ類も押されぎみになる)、トーイン、トーアウトが過大になってしまいます。何でも、基本から大きくはずれたセッティングは、クセが強く出る事になり、このトーもあり過ぎると、「タックイン」が益々大きくなるはずです。本来トーイン、トーアウトはステアリングラックに付いているラックエンドで調整するべきものなのです。後々説明致しますが、ラックエンドの調整や部品交換を一度もやっていないミニ1000なら、確実にトーイン、トーアウトが大幅に狂っていると考えられます。
どの車についても言えますが、タイヤは何となく前方を向いて装着されておりますが、実は、見た目だけでは解からない位に角度が付けられており、この角度を変化調整する事で、車高を若干下げて本当の性能が引き出せるのです。何でも下げれば「良くなるはず」はあり得ないのです。
ミニはフロントにダブルウィッシュボーンと言われる足回りの構造で、これは、現在では最もポピュラーであり、スポーツカーに多く見られる高価な足回りです。ミニは50年も前に既にこの最高の足回りを得ており、これをシッカリ調整もしないで乗られているミニは、まさに「宝の持ち腐れ」になっているのです。さて、「ツッパリ棒」になっているテンションロッドをどうしたら良いでしょうか、次回は、この辺の部品とそれらの長所と短所をお知らせ致します。 |