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No.06 クロスドリルと表面処理

英国ではクロスドリル加工をチューニング用クランクに施し、高回転時のオイル切れ対策や油圧の安定化を図ります。日本ではクロスドリル加工を知っているメカニックは大変少ないと思いますが、この加工を行う内燃機屋はもっと少ないかも知れません。
しかもスタンダードの純正クランクを再加工するにはとても高価(多分)な作業で、スチールクランク(EN40B)もとても高価な部品でして、お手軽に安価に、そして確実にオイル確保するためにはどうしたら良いのか??

オイルライン内部の抵抗となる部分を出来る限りスベスベにすることです。ならばどうするか?それは穴を拡大する事ではなく、内部を【お磨き】するということです。工具屋で『リーマ(reamer)』という刃物を買って行う作業になりますが、素人のDIYでは難しいでしょう。なぜなら“手加減”で行うために相当な経験が要求され、無理矢理で行うとオイルホールの中でリーマが折れてしまうこともあるのです。これを取り出すのは一苦労です。コンロッド両サイドの【お磨き】は、素人でもプロでもそれほど出来栄えに差が出るとは思いませんが、このオイルホールの作業はリスクが大きいと考えて下さい。

そして、この場所による油圧と油量の差異をなるべく平均化するには、メインベアリングのオイルホールの加工という事を行います。また、オイルホール出入口の面を加工することも大切な作業でして、クランクの穴の位置と、メインベアリングの溝の位置(左右)、そして、その溝の角の部分がなるべく正しい状態かをチェックして下さい。

オイルデリバリーの重要性は誰もがご存知だと思いますが、地道に強度や耐久性の向上を図る事が、結果として長期間トラブルフリーで乗り続けることを可能とし、またコスト的にも有利になるのです。
オイル性能が年々向上しているとはいえ、ミニAタイプエンジンに関していうならば、スタンダードの25%出力アップを計画する際には、このオイルデリバリーがスタンダードのままではリスクが高くなると覚えておいて下さい。

実際の標準的なエンジンと同様、シリーズ‘A’クランクのビッグエンド(コンロッドベアリング)への潤滑オイルは、メインベアリングジャーナルから供給されます。エンジンの回転速度が上がるほど遠心力が増し、より多くのオイルがビッグエンドへ移動します。極端な高回転の状況下では、ビッグエンドへのオイル流量が、メインベアリングへのオイル流量を上回ることもあります。これは、メインベアリングのオイル不足を意味します。この遠心力を減らすため競技用クランクにはクロスドリル加工が施されます。

この加工は通常の出口をビッグエンドジャーナルに接続して、最大半径となっているオイル出口の代わりに、より小さい半径となるオイル出口になるように正しい角度で穴あけをすることで、遠心力を減らします。このクロスドリル加工は穴あけされていないクランクに適用することができます。
※Special TuningのEN40Bクランクは競技用であったため、全てにこの クロスドリル加工が施されていました。

クロスドリルされたクランクの方が良いのは明らかですが、 個人的には、クロスドリルされていないクランクを使用して、1275エンジンの81mmのストロークで8000rpmまで回しても問題が起きたことはありません。それでも、メインベアリングへの注油が約束され、安全性に対してより大きいマージンが得られるクロスドリルは、するに値するものなのです。
多くの高性能エンジンスペシャリストは、クロスドリルされていないクランクを、クーパー“S”のクロスドリル仕様のクランクに加工を行います。

David Vizard先生の著書『Tuning the A-Series Engine』より引用


38年も前の経験談ではありますが、ISUZUベレットGTRや117クーペのエンジン出力向上を行うと、必ずシリンダーヘッドのカムが焼き付きを起こしてしまいました。これもオイルデリバリーが高回転になると追い付かなくなり、殆どの場合がシリンダーヘッドのフルオーバーホールが必要となってしまうのです。
もちろん高額になることは言うまでもありません。運良くガスケットが先に抜けてしまっていた方がコスト的には安上がりでした。この様にならないためにもオイルデリバリーは、最も大切な事のひとつなのです。高性能オイルを入れていても、大事な部分にオイルが届けられない!なんて事だけは絶対に避けなければなりません。
あらゆる多くのトラブルも良い経験となりましたが、いくら高出力なエンジンにチューニングアップがなされても、耐久性が低いエンジンは結果として「間違いだらけのチューニング」という事なのです。エンジンを、どこまでコツコツと地味な改良改善を積み上げていくかで、その耐久性は大幅に異なるのです。

余談ですが、ベレットも117も5500RPMを超えると4速トランスミッションのシフトレバーからのバイブレーションは、まるで振動ドリルの様にビリビリと震え、手で握り締めても全く止まらない困った車でした。

日本人の生真面目さや正確な作業能力は、大変に高度な国民性ではありますが、純正部品や競技用部品(チューニングパーツなど)の精度や強度を再チェックしたり、強化する事には、あまり興味が無いようで、なんでも高価な部品さえ取り付ければ、それで全てが解決とはならない事が多く、高出力、高耐久性の両立が『上手なチューニング』であり『見識の高いエンジン』と言えるのです。

そして次なるステップは、皆様も聞いた事あるかと思いますが、窒化処理やタフトライド法など金属の表面処理についてです。

窒化処理では、窒化層の最表面層に安定した圧縮応力が存在するため、耐摩耗・耐疲労性を有します。クランクシャフトをはじめ、カムシャフトなどは軟らかい鋼で作られ、その表面が軟らかいままだと金属同士の接触でかじりを生じ、摩擦抵抗となります。これを被膜によって摺動(しゅうどう:モノが擦り合わさって動くこと)抵抗を低減させ、耐摩耗性を向上します。タフトライド(新商標:イソナイト)は塩浴軟窒化と呼ばれる窒化処理法の一つで、窒化より硬度は低いが、処理が簡単であることからレーシングパーツに用いられています。

 

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