前回はセンターメインストラップの強化をお伝え致しましたが、1,300ccの場合でもミニは、基本的に多くの構造が850と大差ない強度のところも多く、これが出力向上やチューニングアップを始めると、色々と強化対策を求められる様になるのです。
「強化対策は無くてもOK」と考える方も多いわけですが、最小の投資で最大の効果を上げる「改良」を怠り、なんらかのトラブルが起きた時、もう一度エンジンを脱着するコストと手間を考えると、「危険がいっぱい」のチューニングアップと言う事になり、やめておいた方が良いと言えます。立派な家を建築するのに、土台にお金をかけない様な事と同じで、エンジン出力の全てを受け止める、通称「腰下」のエンジンブロック、クランクシャフト、コンロッド、フライホイル等に、「粗悪品」や「手抜き工事」があっては絶対にダメだと言う事です。
具体的な例では、クランクシャフトを再研磨しても必ずチェックしなければならないのが「メタル合わせ」と言われる作業で、これは研磨して仕上げたクランクシャフトに対して、メタルの仮組みの時点で「硬め」か「ゆるめ」を調べるわけですが、数字的には、許容範囲があり、この中に収まっていれば良いわけです。
親メタル(メインベアリング)とクランクのクリアランスの各誤差は1か所ずつ「微妙」に異なることになり、これを、できる事ならば範囲の中央より「ゆるめ」で均等の誤差に近づける事が理想的となります。
機械加工をどんなに高精度に行っても、誤差は必ず発生します。その誤差を確認できれば、その誤差を均等に近づける事も出来ると言うわけです。なかなか難しい話ではありますが、最後は「手作業」になるのですが、誤差(クリアランス)を均等にする際も前回お知らせした方法もその一つで、数値が千分台に近い誤差を修正するには大変有効なのです。どんなに高精度の機械があってもそれを超える測定機器が無い事には話になりません。
ここから先の機械加工の話は相当な知識があっても経験が何より大切で、そして何よりミニのエンジン加工について、その特性をよく知らないようではダメだと言う事です。近代的なエンジン構造レベルでの、例えば「トヨタTRDなら…」とか「ホンダの無限では・・・」は全く関係ありません。これはすべての自動車について言える事ですが、エンジンが12気筒であってもその1気筒ずつの作業は全て同じで多気筒だから難しいと言う事もなく、またその逆もないのですが、最新フェラーリやポルシェの修理を行っていても古いロータスTCやミニもできるかと言うと、それは当てにはならず、50年前に開発されたエンジン構造である「ミニ」と「英国車」、そして60年前に誕生した強度や材質であると言う事が理解されているかどうかが重要なのです。
では、この特徴のあるエンジンの古いクランクシャフトの再利用にあたり、出力の向上に安全を求める為にも、数種類の方法がある事を先にお知らせします。
第一に「90BHP(馬力)」は、このAタイプエンジンの強度に対しては、それほど危険な出力ではありませんが、オイル潤滑には問題が発生する事が多いのです。
クランク内を通過して4本のコンロッド各所にオイルがデリバリーされる事になるのですが、スリーベアリングであるミニAタイプクランクは、どうしてもどこか1か所のメインベアリングが2気筒分のコンロッドへオイルをデリバリーしなくてはならないのです。そして、「パスカルの法則」とおりに考えるならば、それは仕事を2気筒分する個所が、瞬間的にオイル切れや、均等でなくてはならない油圧と油量にバラツキを起こし易いと言う事です。
これを防止するには、
- 最高級のオイルを使う。(常に温度と粘度の差が起きないような?)
- オイルポンプを超高圧にする。(高圧力でオイルを潤滑させ油圧を保つために?)
- オイルを多めに入れる。(単純にオイル切れを発生させないために?)
- オイルクーラーを取り付ける。(オイルを冷やしオイル自体にダメージを与えないように?)
等、あれこれアイディアが出てくるかと思いますが、一般的な正解はオイル穴拡大加工など給油量の確保に関係するような作業によって解決されます。古いエンジン構造で行うのはあまり日本では一般的ではありませんが、通称スチールクランク(EN40B)などには必ずといって良いほど、英国では相当ポピュラーな「クロスドリル」と言われる作業(加工)が施されます。クランクシャフトの内部のオイル通過をすべて最短を求めて油圧と油量をなるべく均等にしようとすることを目的としており、かなり高度なチューニング技術の一つではあります。このような作業を行わない7800RPM(回転)以上は、まったくの無謀か、またサーキット走行会やレース出場をするのなら、毎回エンジンのオーバーホールを覚悟するかという事になるでしょう。
僕のミニは「大丈夫(例えば:そんなに回さないから)」と言う方は、タコメーターに「誤差が生じている」、または見ていない。そして何より(チューニングしたとおりの)出力が出ていないかのいずれかで、筑波サーキットを1分10秒から13秒台でのラップタイムを求めるなら、「僕のミニ」は確実に「エンジン破損」へと近づく事になるのです。これはミニに限らずAタイプユニット全てについて言える事で、1回目にエンジン破損するか、3回目にエンジン破損するかは予測出来ないのです。
どのくらいで出力とトルクの追及をやめておけば良いのかは答えられませんが、「良い」と言われる事の中から「絶対」に必要と考えられるところをお伝えしておりますので、エンジンの土台とも言うべきところは絶対に「手抜き」は禁物と言えるのです。
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