No.25 オートマの話【後編】
最終モデルでも製造から20年以上経っている立派なクラシックカ-【MINI】、その中でも故障すると大変な事になるオートマチックトランスミッション(以下略AT)を少しでも長く乗ってもらう為にこの記事が役立ってくれることを願います。
※≪前編≫『無駄な変速やキックダウンを避け、Dに入れっぱなしにしない。』はコチラより。
オートマの話≪後編≫『シチュエーションに沿った有効なギア選択』
どのような操作をすればATの寿命を延ばせるのでしょう?
簡単に言うと乗っている人がショック、特に変速時にショックを感じないようにすることです。変速時のショックの多くは2つのクラッチと3つのブレーキバンドがスムーズに作動しないことによって発生します。
ここからは実際に運転しているような感じで進めて行きましょう。
■まず冷間時のスタートです。
インジェクションでは極寒でない限り30秒から1分もアイドリングすれば充分でしょう。過剰な暖気運転は必要ないと思います。ただし、いきなりアクセルを大きく開けるなんて厳禁です。
平らな所や下り坂に駐車しているのであれば発進は2速で十分。トルクコンバーターがMTの半クラッチのような仕事をしてくれるので必要なトルクは得られる筈です(トルクコンバーターは半クラッチでも消耗しません。)
ゆっくりと走りだしましょう。
ここからは道路状況にもよりますが、普通に加速すれば直ぐに上のギヤに入れたい回転になると思います。ここでせっかくマニュアルシフトするのですから、しっかりとアクセルを戻して3速に入れてあげてください。
MTの運転もする人ならお判りですよね、変速時にはアクセルは戻す筈です。
例えば2から3に変速する時に起きることは2速のブレーキバンドが離れて3速のブレーキバンドが仕事を始めます。
プラネタリーギヤユニットになるべく出力が伝わっていない状態で変速すればバンドの消耗を抑えることが出来ます。(フォワードクラッチは前進ギヤでは繋がったままなので変速時の消耗はありません。)
ガバナが十分に力を出していればT&Rクラッチに油圧が供給されて4速に入るはずです。これでオートマチック状態での走行となりました。普通に流れていればD-4で快適に走れると思います。
しかし全体の流れが遅くてギクシャクするような時もあります。このような時は3とか2を選んでホールドで運転してみてください。不要な変速(つまりは不要なクラッチやブレーキの摩耗)が無く意外とスムーズに走れることに気づくと思います。
走り慣れた道であればこんな感じで”前進はいつも“Dだけ“よりもずっとATを労わってあげられる筈です。タウンユースがほとんどな私の知り合いで、その大半を3速ホールドで走り、15万キロ以上ノンオーバーホールで乗り続けています。
知らない道を進んで行くと目の前に急な上り坂が現れました。シフトレバーはDになっています。このまま行くと途中で力が足りなくなりアクセルを強く踏み込む事となりそうです。当然、途中でキックダウンする事となります。
このキックダウンはできるだけ避けたい行為の1つです。
この時、AT内部では普通に走っていたのでD-4でした。・・という事は働いているのはフォワードとT&Rの2つのクラッチです。
ところが上り坂の途中でスピードが落ちてしまった為、あなたは強くアクセルを踏み込む事となります。アクセルペダルの勢いがガバナを抑えるのでバルブボディはT&Rクラッチへの油圧供給をやめ3速のブレーキバンドを作動させるべくサーボに油圧供給をします。
そしてキックダウンが起き3速に入ります。問題は3速ブレーキバンドの負担です。
あなたはアクセルを強く踏んでいるのでエンジンは出力を増してプラネタリギヤユニットは強く回転しています。ブレーキバンドは変速の為にその回転を止めなければならず、その負担はとても大きいものとなります。いつものようにマニュアルシフトでアクセルを戻してのシフトよりもずっと大きな負担を強いられる筈です。
初めての道ではこのような事態も致し方ないかもしれません。しかし、いつも走っている道でいつも同じようにキックダウンしている方は今日から改めてください。坂道を登る前にアクセルを戻し3にマニュアルシフトしておけば良いのです。
■下り坂ではどうでしょう。
アクセルを完全に戻しているのにどんどんスピードが出てしまう様な下り坂、あなたはDでこの下り坂に入りました。
当然Dから3とか2にシフトダウンして必要なエンジンブレーキを得てください。たまに下りきるまでブレーキランプが点きっぱなしなんて車を見ることがあります。
ここで意外とご存じない方が多いのが1ではエンジンブレーキが掛からない事です。
1速を作動させるのはフォワードクラッチとワンウェイクラッチでしたね。このワンウェイクラッチはエンジンのオーバーレブを防止するためにエンジンからタイヤへの出力時には働くがタイヤ側からエンジンを回転させるような状況(つまりエンジンブレーキ)では空回りしてトルクの反力をケースに伝えません。
結果として1速ではエンジンブレーキが掛かりませんので、ミニAT最大エンジンブレーキは2速 です。
■では、とても楽しいワインディングロードです。
ミニはATでもワインディングは楽しいですね。つづら折れのワインディングを気持ちよく登ってゆく、考えただけでもミニで良かったと思えそうです。
さてシフトは何処に入っていますか?もちろん道の状況にもよりますが2や3のホールドであるべきです。
ではもしDにシフトされていたらAT内ではどんな事が起きるでしょう。
目の前に軽いブレーキをかけて侵入するようなコーナーが迫ってきました。その手前は緩いコーナーが続いていたのであなたのAT内ではD-3になっています。
進入に備えてあなたはアクセルを戻します。ガバナが一気に押し込んでD-4にギヤが上がってしまうでしょう。コーナーを抜けて次のコーナーまでの短い直線、再びアクセルを踏み込むあなた、ガバナはアクセルの力に負けて再び3速にシフトダウンされます。
この1つのコーナーで3速ホールドなら必要のない2回の変速(つまり2回の消耗)をしてしまいました。もし日光のいろは坂だったら一体どれだけクラッチやブレーキバンドを傷めてしまった事でしょうか。
(コーナーの途中でトラクションがナンチャラなんていう話は改めて。)
■ATを傷めてしまうことは少ないですが止まる時のことも。
何速に入っていても停止線まで惰力で辿り着けるのであればシフトレバーの位置をそれほど意識する必要はないと思います。
Dの場合、速度の低下によってガバナが力を弱めますがもちろんアクセルも戻した状態ですから停止、もしくはその寸前にオートマチックにシフトダウンされる筈です。
エンジンがほとんど出力していない状態での変速はクラッチやブレーキバンドの負担は少ない筈です。
2や3のホールドで走っていたならそのまま停止します。どちらも停止後シフトを1もしくは2に入れて次の発進に備えます。稀に信号待ちなどの停止後リバースランプが一瞬点く車を見かけます。
恐らくは信号待ちのたびにPに入れているのだと思います。前進ギヤからNを通過しRも超えてPに入れる。AT ではやって欲しくない事です。Nにすることも同様です。せっかく1度繋がったフォワードクラッチを開放し、また繋ぐという事は無駄であることはもうお判り頂けたかと思います。
Nのまま、よそ見していたら信号が変わり、アクセル踏み込んだらニュートラルでエンジンの回転が一気に上がってしまい、慌ててシフトしたらすごいショックが‥。ATだけでなくドライブシャフトなどの駆動系も大きく傷めてしまうことになりかねません。
ギヤが入ったままでブレーキを踏んで止まっている時に、AT内部はフォワードクラッチが繋がりワンウェイクラッチあるいは2速ブレーキバンドによって既に走りだす準備は出来ています。
この時トルクコンバーター内部ではポンプインペラーが回転し、タービンランナーを回して力を伝えようとしています。しかしブレーキが踏まれているのでコンバーター内部でのオイルの流れが起きているだけです。よっぽど長時間の停車でなければシフトはそのままであった方が良い筈です。
上り下り、カーブの大きさ、渋滞、信号待ち、色んな要素があります。これらを見極めて正しいギヤ選択をしながらスムーズに走らせることを楽しんで貰えたら(面倒くさいのでは無く)、それは同時にあなたのATの寿命を延ばす助けにもなる筈です。
最後にここまで全て読んで頂けたら、シフトがNの下に1から始まっている事にご納得頂けたのではないでしょうか。